英国下院公会計委員会(PAC)は、政府がシズウェルC原子力発電所の44.9%の株式を保有することで、建設・運営コストの超過リスクとして納税者が約220億ポンドを負担する一方、民間投資家の追加責任は3000万ポンドに上限が設定されていると警告した。
主要ポイント
- PACはシズウェルCのコストが480億ポンドに達する恐れ、納税者が218億ポンド(建設98億+運営120億)の超過リスクを負うと警告。
- 政府出資比率はCGN買収で44.9%に拡大、民間投資家の追加責任は3000万ポンドに上限。
- ヒンクリー・ポイントCはコスト倍増・7年以上の遅延、シズウェルCも2039〜2043年完成見込み。
- 政府は運転後に年間20億ポンドのシステム節約を主張、批判派は撤退コストの方が60年分の負担より安いと反論。
- 政府は3カ月以内のシナリオ分析公表と半年ごとの進捗報告を義務付けられる。
エグゼクティブ・インテリジェンス・ブリーフ
非対称なリスク配分が議会の厳しい批判を浴びる
サフォーク州に建設予定の出力320万kWのシズウェルC原発(ヒンクリー・ポイントCと同型)の資金調達スキームについて、PACは厳しい判断を下した。総事業費は405億〜477億ポンド、完成は2039〜2043年と見込まれる。
現在の出資比率は、英国政府44.9%、仏国営EDF12.5%、セントリカ15%、カナダのラ・カース20%、アンバー・インフラストラクチャー7.6%。政府が国家安全保障上の理由から中国広核集団(CGN)の持分を買い取ったことで、公的資金が筆頭株主となった。
焦点は、納税者と消費者が無制限の超過リスク(建設段階で98億ポンド、60年の運転期間でさらに120億ポンド)を負うのに対し、民間投資家の追加拠出は契約上3000万ポンドに上限が設定されている点だ。
ヒンクリー・ポイントCの前例とRABモデル
今回の批判は、新規原発に適用される規制資産基盤(RAB)モデルと差金決済契約(CfD)への長年の懸念を裏付けるものだ。参照事業のヒンクリー・ポイントCは、初期見積もり180億ポンドから340億〜350億ポンドへ膨らみ、完成は2029〜2031年に遅れた。シズウェルCは「ファースト・オブ・ア・カインド」の学習効果が期待されたが、PACは公的財政へのリスク移転を「並外れている」と断じる。
PAC委員長のジェフリー・クリフトン=ブラウン卿は「シズウェルC建設で納税者と消費者が負うリスクの高さは並外れている。民間投資家は多額のリターンを得られる見込みだが、顧客は高い電気料金を負わされる」と述べた。
政府の擁護と業界の反論
政府はPACの指摘を退け、「投資家にはできるだけ安く、早く建設を完了させるインセンティブが働く」と反論。運転開始後はエネルギーシステム全体で年間20億ポンドの節約効果があるとし、現場で2000人が作業中であることを進捗の証左とした。
原子力産業協会(NIA)のトム・グレートレックス最高経営責任者(CEO)も「クリーンで信頼性が高く、常時利用可能な電力」が需給調整コストを相殺すると擁護。直近の年間調整コストは28億ポンド(出力抑制とガス火力バックアップ)に上ると指摘した。
撤退とモデル見直しを求める声
反対派のアリソン・ダウンズ氏とグリニッジ大学ビジネススクールのスティーブ・トーマス教授は、今撤退すれば「60年にわたる割高な電気料金の支払いを何倍も繰り返すより安い」と主張。今後の原発事業でこの資金調達モデルを排除すべきだと訴え、「投資家にただ乗りを許し、家計に財政的痛みを与える」と批判した。
コンプライアンス期限と次の判断
PACは政府に2つの具体的な成果物を義務付けた。コスト試算の根拠となるシナリオ分析を3カ月以内に公表し、半年ごとの進捗報告を行うことだ。最終コストとスケジュールが極めて不透明なまま、2039〜2043年という完成時期は丸々1つの議会任期をまたぐことになる。
